Legal Foundation Kaohsiung City TSZ LIAN Social Welfare Foundation
International Conference Homeless Service Report In Kaohsiung
令和5年11月、台湾の高雄市で開催された生活困窮者支援の国際シンポジウムが開催されました(主催:慈聯(じれい)社會福利基金會)。主催者より社会福祉法人 有隣協会が日本で実施している生活困窮者支援を紹介して欲しいとのご依頼をいただき、この度、シンポジウムへ参加させていただきました。参加させていただくに至った経緯も含め、ここにご報告いたします。
私たち有隣協会と台湾の高雄市にある『財團法人高雄市慈聯(じれい)社會福利基金會』の皆さまとの出会いは2005年。当時、自立支援センターは東京都における困窮者支援の花形事業だったため、国内外から注目を集め、様々な法人が視察に訪れていました。そんな中、慈聯社會福利基金會の皆さんが有隣協会の運営する自立支援センター渋谷寮に来訪されました。施設の見学、制度の説明、現場(利用者)対応を代表して行った当時の渋谷寮施設長(現理事長)によると、慈聯社會福利基金會の皆さんは、「女性職員が多く、エネルギーを感じた」「熱心に耳を傾けていた」と、約20年の月日が流れても強く印象に残っているそうです。
蔡理事長
2023年5月、台湾の私立朝陽科技大学ソーシャルワーク学科の孫先生より、「今年の11月頃に路上生活者について、国際シンポジウムを台湾で行います。以前、慈聯社會福利基金會の蔡理事長が渋谷寮を視察したこともあり、ぜひ、有隣協会が日本代表として参加してほしい。」という流暢な日本語の電話が入りました。これは、有隣協会として今後の生活困窮者支援にも活かせる、またとない経験をすることができるのではと、参加することを決意しました。
孫先生
令和5年11月1日(水) 慈聯本部でワークショップ(支援事例の紹介)、三民街友服務中心(三民ホームレスサービスセンター)視察
令和5年11月2日(木) 2023台湾遊民業務国際研討会 初日
令和5年11月3日(金) 2023台湾遊民業務国際研討会 2日目
ワークショップは、ホテルからバスで30分ほどの慈聯本部で開催されました。慈聯の皆さんが笑顔で出迎えてくれたため、言葉は通じないものの、こちらの緊張も解け、気持ちが通じ合えたような気がしました。
ワークショップは午前と午後の2部構成で行われました。午前(路上生活者支援のケース例を通した実態)の講師を急遽不参加となってしまった浜川荘吉田主任の代わりに、荒川寮佐藤主任・春風寮熊坂職員が務め、午後の部(日本の路上生活者・生活困窮者支援の変化とこれからの社会福祉について)の講師は今回座長を務めるさざなみ苑塚本職員が担当し、通訳を孫先生が行ってくださいました。孫先生との打ち合わせ時間は僅かでしたが、孫先生の流暢な通訳と機材のセッティングを行って下さった慈聯の皆さまのおかげでスムーズに講演を行うことができました。
今回のワークショップでは、日本の生活困窮者支援の制度や、有隣協会で実際に対応した事例、事業概要などをお伝えしました。本来であれば、日本全体における路上生活者の統計や実態、日本と台湾の制度の違い、有隣協会が70年間という長い期間困窮者支援を継続し続けている経緯などもお伝えしたかったのですが、時間の都合上、お伝えすることが出来ませんでした。また交流の機会を設けることができれば、伝えきれなかったことを伝えたいと考えています。
ワークショップ後、慈聯が高雄市より委託を受け運営している三民街友服務中心(三民ホームレスサービスセンター)を見学しました。
この施設では東京都の自立支援センターと同様に、緊急保護後に健康診断・心理相談を経て、社会復帰に向けた支援を行っていました。現在日本の自立支援センターの利用者は、ネットカフェ難民など路上生活経験が少ない生活困窮者が中心であるのに比べると、三民街友服務中心では路上生活からの入所が多いようでした。市民が路上生活者を見つけた時の通報専用ダイヤルや、今では通報のスマホアプリもあり、連絡を受けると三民街友服務中心の職員さんが現地へ向かわれるそうです。
施設内はとても広く開放的な印象を受けました。中庭にはキッチンカーや農園が整備されており、街中で軽食や野菜の販売を行ったり、農業を実践するなど、東京都の自立支援センターには見られない就労支援のかたちがありました。施設見学の最後に、路上生活者がシャワーや衣類の洗濯が出来る入浴サービスの車両を見せていただきました。施設の入所者ではない路上生活者も利用できるそうです。
2023台湾遊民業務国際研討会 INTERNATIONAL CONFERENCE OF HOMELESS SERVICES
慈聯社會福利基金會の蔡理事長が主催する「2023台湾遊民業務国際研討会」は、大きな会場で数百名が参加される大きなシンポジウムでした。台湾各地の福祉団体の他、マカオの生活困窮者支援団体、そして日本から有隣協会が招かれました。台湾の"生活困窮者支援の父"と呼ばれる蔡理事長の挨拶から始まり、行政機関の方、高雄市長も来賓で挨拶をされていました。
まず各団体の活動報告がされましたが、驚かされたのは、皆さんのプレゼン能力の高さでした。言葉は耳につけたイヤホンから孫先生の通訳で聞いていたのですが、プレゼンをする誰もが、話し方や抑揚が非常にうまく、会場の皆さんが夢中になって聞いているのが伝わりました。
我々有隣協会の講演は塚本座長が行いました。私たちが伝えたことは、有隣協会70年の歩みと、造り上げてきた開拓精神、その積み重ねの上で次世代の生活困窮者支援として「役割の創出・再分配」機能を有した就労・生活支援のかたちです。その他、日本の制度についての詳細や現場では職員が普段どのように施設利用者と接しているか、少子高齢化や人口減少に対応した新たな福祉制度の形など、他にもお伝えしたいことがまだまだ沢山ありましたが、発表時間が2時間と限られていたため、また改めて発表の場をいただければと考えております(講演のご依頼は有隣協会 本部事務局まで)。
2日目は高雄市医療チームによる巡回の実績報告や、慈聯の皆さまによるキッチンカーの活動報告、最後に全団体の総合的な質疑応答が行われました。有隣協会にも多岐にわたる質問をいただき、各担当より回答しました。
【頂いた質問事項】
・法人の経費や資金源
・東京都の更生施設や自立支援センターの利用料や委託金などの資金面
・自治体のホームレス支援状況
・公営住宅の利用について
これからも慈聯の皆さまをはじめ、台湾・マカオの福祉団体等と、意見交換を行いながら、国際交流が図れればと考えています。
台湾 高雄の空港に到着すると、蔡理事長、張CEO自ら入国ロビーであたたかくお出迎えしてくれました。到着して間もなくホテルでの会食、また翌日のワークショップ後に慈聯本部で頂いた昼食やお茶、また三民街友服務中心を見学後には高雄名物の海鮮料理でもてなしていただきました。さらにシンポジウムの間も、参加団体全員が交流できるよう食事会を開催され、素晴らしい料理のおもてなしに圧倒されながらも、気さくに声をかけてくれて、それでいて路上生活者支援への熱い思いをお話してくださった蔡理事長には、参加した職員皆、ただただ尊敬してやみません。またシンポジウム後には参加団体の皆さんとともに、高雄港クルージングにもご招待いただき、日本とは規模が違う蔡理事長のおもてなしのお気持ちに感嘆するばかりでした。帰国する際にも、早朝にも関わらず空港まで見送りにお越しいただきました。台湾 高雄での数日間の多大なるおもてなしに感謝致します。これからも、国境を越えて連帯し、ともに歩みを進めていきたいと思います。
この度の、法人の大きな一歩となる貴重な体験は、孫先生なくしては実現できなかったと思います。最初のコンタクトや、資料作成の段階から内容の確認や翻訳まで、非常に多忙な中ご対応頂き、本当にありがとうございました。私たちが現地に到着してからは、初日から最終日まで、また朝から晩まで同行してくださいました。孫先生は「皆さんのお陰で私もこのホテルに泊まることが出来ました。」と言っていただきましたが、参加メンバー全員が孫先生の信頼感、安心感、ユーモアあふれる人柄、そして「〇〇じゃん!」という流暢な日本語のお陰で、我々全員の緊張がほぐれて、異国の地で安心して頑張ることが出来ました。またワークショップや施設見学、シンポジウムの間、常に同時通訳をして頂き、大変な労力だったと思います。本当にどうもありがとうございました。
慈聯社會福利基金會 蔡理事長、張CEO、職員の皆さま、また孫先生、改めましてこの度はさまざまな貴重な経験をさせていただき、どうも有難うございました。今回のシンポジウムを通じて、有隣協会の経験と知見が国内にとどまらず、様々な地域の皆さまに貢献できるという可能性を強く感じました。これからも有隣協会では、時代の流れや状況の変化に柔軟に対応した社会福祉、生活困窮者支援を行ってまいります。今後ともよろしくお願いいたします。
【最高責任者】
小又 正幸(理事長)
【講師】
座長 塚本 隆明(更生施設さざなみ苑:生活指導員)
吉田 涼 (更生施設浜川荘:主任生活指導員)
【サポート】
佐藤 隆志(自立支援センター荒川寮:主任生活指導員)
熊坂 桜子(日常生活支援住居施設春風寮:生活指導員)
坂本 洋 (養護老人ホーム千寿苑:施設長)
肥後 盛朝(自立支援センター荒川寮:施設長)
大竹 伸康(更生施設さざなみ苑:施設長)
田中 敬介(法人本部事務局:主任事務局員)
田中 琴乃(法人本部事務局:事務局員)